ことわざを具現化した「有松・鳴海絞り」

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青は藍より出でて藍より青し

ここで言う「藍」とは、染料に使う藍草のこと。その藍草で染めた布は藍草よりも鮮やかな青色となります。その関係性を師弟関係に当てはめ、弟子が師匠の学識や技術を越える意味で用いるのがこのことわざです。

模様染めの技法の一つに絞り染めがあり、絞り染めの染料の一つに藍があります。

特に江戸時代の絞り染めは、大まかに高級絞り「京鹿の子」と、庶民的な「地方絞り」に分類され、地方絞りは麻地や木綿に「藍」を用いた絞りを指します。

地方絞りの代表的なものの一つが名古屋市緑区の有松地区が発祥の「有松・鳴海絞り(ありまつ・なるみしぼり)」です。

「絞り染め」とは、縫ったり、糸でくくったりするなどの方法で圧力をかけた状態の布地を染料で染め、ほどいた時に染料が染み込んだ部分とそうでない部分で模様を作り出す技法のことです。

有松・鳴海絞りは数ある絞り工芸の中でもっとも技法の種類が多いと言われています。

最盛期には実に100種類以上の技法があり、現代まで伝え知られているものだけでも70種類はあるそうです。この種類の豊富さにおいては世界一と推測され、他の絞り染め生産地に類を見ないと言う事です。

絞り染めの聖地と言っても過言ではなさそうですね。

その素晴らしい絞り染めの一部を有松地区にある「有松・鳴海絞会館」で実演と共に見る事が出来ます。

では、少し見学してみましょう。

↑有松・鳴海絞会館

如何でしたか?

心地よさを感じる落ちついた美しい模様ですね。

ところで、有松・鳴海絞りとともに発展した有松地区の町並みは当時の繁栄の面影を残し日本建築の美しさを今に伝えています。2016年には国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

少し散策してみましょう。

↑有松の古い町並み

このような通りを歩くと癒されますね。

古い町並みを歩いていると立派な黒漆喰の土蔵が目に飛び込んできます。

名古屋市指定有形文化財の「竹田家住宅」です。↑竹田家住宅

ここは有松絞りの原点とも言える場所かもしれません。

なぜ原点と言えるのか少し説明しましょう。

有松地区はかつて人家の無い荒地だった為、東海道沿いの治安に支障をきたしていた事から尾張藩がこの地の住む人を募集し、集落を作ったと言うのが有松地区の始まりと言う事です。

しかし、この土地は稲作には適さない土地であった事と鳴海宿に近い事から町の発展が望めなかった事から何か特別な物が必要と感じた人物がいました。

有松に移り住んでいた住人の一人である竹田庄九郎(たけだしょうくろう)です。

庄九郎は慶長年間(1596年〜1615年)に行われた名古屋城築城の作業者として九州から来ていた人々の着用していた豊後絞り(豊後は現在の大分県)の衣装に着目し、この頃生産が始められていた三河木綿や知多木綿の手拭いに絞り染めを施し街道を行きかう人々に土産として売ったそうです。

これが有松・鳴海絞りの起源とされています。

「竹田家住宅」は庄九郎が初代となり現在は8代目が受け継いでいると言う事です。

竹田家住宅が有松・鳴海絞りの原点とも言える場所と前述したのはこい以上のような経緯からです。↑竹田家住宅

ただ、有松・鳴海絞り起源については他にも説があります。

豊後より移住した三浦玄忠と言う医師の妻によって豊後絞りの技法が伝えられたと言うものです。

いずれにしても有松・鳴海絞りの起源は豊後絞りにあると言う事ですね。

豊後絞りに起源を持つ有松・鳴海絞りは尾張藩の保護により「街道一の名産品」と賞賛され、参勤交代など東海道を往来する旅人などの間で大人気となりに全国的に知れ渡ったと言う事です。

豊後絞りにヒントを得て生まれた有松・鳴海絞りは豊後絞りを上回ったと言えるかもしれません。

絞り染めの染料には藍が使用されています。

有松・鳴海絞りはまさに「青は藍より出でて藍より青し」のことわざを具現化したと言えますね。

さて、江戸時代に前期に発展した有松・鳴海絞りは幕末から明治にかけて藩の保護がなくなり一時期衰退したようですが明治時代中期以降に新技法の開発や特許の取得などが行われ、生産量が増加し全盛期を迎えることになります。

しかし、昭和時代中期には中国や韓国などの安い製品に押されかつての繁栄は縮小して行きました。

現在の有松・鳴海絞りはその町並みと共に2019年(令和元年)、文化庁によって「江戸時代の情緒に触れる絞りの産地~藍染が風にゆれる町 有松~」として、日本遺産に認定されています。

↑井桁屋(服部邸)↑中濱家住宅

「青は藍より出でて藍より青し」には人は学問や努力により持って生まれた資質を越えることが出来ると言う意味も含まれています。

有松・鳴海絞りはこれまでとは異なるステージに入った事により新たな地位を確立していく事でしょう。

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