苗木城の石垣と龍の背後に隠された真意の推察

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自然の巨石と、人工的に加工された石の融和によってここの石垣は成立している。

その迫力に圧倒されてしまった。

全国的にも珍しいこの石垣を持つ城は苗木城(なえぎじょう:岐阜県中津川市)である。

↑苗木城跡↑苗木山跡_大矢倉↑苗木山跡_天守展望台

苗木城には龍の伝説が残されている。

『苗木城の壁は白漆喰ではなく赤土がむき出しになっていたと伝えられる。その理由は、木曽川に住む龍が白い色を嫌い、何度漆喰を塗り直しても嵐を起こし削り取ってしまったからである』

と云うものである。

故に、苗木城の別名を赤壁城と言う。↑木曽川と苗木城

そのような苗木城の築城は1532年、美濃岩村城主・遠山景前(とおやまかげさき)の弟である遠山直廉(とおやまなおかど)とされている。

遠山氏は時の趨勢に翻弄され続けた。

織田信長に仕えていた遠山氏だが、信長が本能寺の変(1582年)で果てると徳川家康に仕えた。

翌年の1583年、豊臣秀吉に仕えていた美濃金山城主・森長可(もりながよし)は苗木城を攻め、落城させた。↑苗木城跡

城を失った遠山氏は家康を頼って浜松へと落ち延びた。

1600年、関ヶ原の合戦が勃発。当時苗木城の城主だった川尻直次(かわじりひでなが)は西軍(豊臣側)に付いて参戦し、戦死した。

関ヶ原の合戦で勝利した家康は遠山氏に空き城となった苗木城を与えた。遠山氏は苗木城に返り咲きを果たしたのである。ここに苗木藩が成立した。

この時、初代藩主となったのは遠山友政(とおやまともまさ)である。

以降、苗木城は遠山氏12代の居城として明治維新まで続いた。

友政は苗木城の麓に遠山氏の菩提寺となる雲林寺(うんりんじ)を創建した。この雲林寺の墓地には友政以降歴代の藩主が眠っている。↑苗木遠山家廟所

しかし、現在、寺は存在しない。

明治新政府によって発布された「神仏分離令」に端を発した廃仏毀釈(はいぶつきしゃく:仏教を排斥し、寺などを壊すこと)によって廃寺になったからである。

廃仏毀釈は全国的に実施されたのだが苗木藩の廃仏毀釈は相当激しいものであったらしい。

苗木藩の領地の一部だった東白川村は現在もお寺どころか、仏壇、仏塔、石仏、など仏教に関する伝統そのものが残っていないそうだ。

なぜ苗木藩はここまで徹底したのか?

当時の苗木藩は平田篤胤(ひらたあつたね)が論じる平田派国学の影響を受けた藩政改革が図られていた。

国学と言うのは日本の古典を研究し、儒教や仏教伝来以前の古代日本にあった固有の精神や文化あるいは思想を明らかにする事を主たる目的とした学問である。

明治新政府が神道国教化のため神仏習合を禁止する必要があるとしたのは平田派国学者の影響からであった。

幕末期の苗木藩の財政は厳しく、明治新政府の施策を率先して行う事が財政難を乗り越える手段の一つとして考えたと推測される。

これらの事情と平田派国学の思想とが絡み合い、苗木藩では廃仏毀釈が過激になったと思われる。

話は変わるが、苗木城は龍との関連が深いように思える。

まず、冒頭で説明した龍の伝説がある。

加えて遠山家の守り神は八大龍王らしい。

八大龍王と言うのは仏教守護の八体の龍王(龍神)を言う。

日本では仏教伝来以前から各地で龍への信仰が見られたそうだ。それが仏教の伝来に伴い仏教由来の八大龍王と習合し信仰の対象になったと言う。

明治以降、現在の場所に据えられたという事だが、苗木城の城郭内には八大龍王の祠がある。

苗木城を遠くから眺める事の出来る位置に足軽長屋跡がある。かつてはこの南側隣地に龍王院という遠山家の祈祷所があったそうだ。↑足軽長屋跡から望む苗木城天守展望台

現在、苗木城へ向かう入口には苗木遠山資料館がある。↑苗木遠山資料館

ここには幕末頃の苗木城の復元模型が展示されている。

これを見ると苗木城が岩の上に築かれた要塞と事が一目瞭然だ。↑苗木城復元模型

磐座(いわくら)と言う言葉がある。

磐座とは、古神道における岩石に対する信仰のことを指す。日本に古くからある自然崇拝(精霊崇拝・アニミズム)であり石そのものを神体として祭祀の対象としている。いわゆる巨石信仰である。

もしかしたら苗木城は城と言う要塞ではなく巨石信仰を基盤にした神社なのだろうか?

そうであれば、その神社に住み着いたのが龍神と言えなくもない。

苗木藩が必要なまでに廃仏毀釈を断行したのは、苗木城が神社と化した為、寺院を遠ざけたかったのだろうか?

↑苗木城跡

物事の真意というのは必ずしも表面化されるとは限らない

ならば、少々強引な想像も、あながち間違っていないかもしれない。

苗木城に訪れた際は、その表面の姿に圧倒されるだけでなく、そこにまつわる歴史も学んで頂き、真意を追求する重要性を携えて頂きたい。

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