競秀峰(きょうしゅうほう)(大分県中津市)は高くそそり立つ岩峰とそこに生える木々が絶妙のコントラストで美しい景観を創り出している景勝地です。
私が訪れた日はあいにくの雨模様だった為、その景観を見る前までは少々残念な気持ちでいましたが、うっすらと霞がかった峰々は仙人が住んでいそうな雰囲気を醸し出し山水画を思わせる風景がその気持ちを払拭してくれました。
競秀峰。少々変わった名前ですがその由来は大黒岩、恵比須岩、妙見岩など8つの見事な岩峰が集まり、競いあっているようにそびえる様から来ているそうです。宝暦13年(1763年)に訪れた江戸にある浅草寺の金龍和尚により命名され、文政元年(1818年)に訪れた頼山陽(らいさんよう)が描いた水墨画の代表作「耶馬渓図巻」によって天下に紹介されたと言う事です。
そんな競秀峰の裾、山国川のほとりに今から250年ほど前、禅海和尚が掘った「青の洞門」が有ります。
禅海和尚が諸国遍歴の旅の途中ここに立ち寄った時に有った道は断崖絶壁の鎖のみで結ばれた難所でした。そこを通る通行人が命を落とすのを見てトンネルを掘り安全な道を作ろうと、ノミと槌だけで30年かけて掘り抜いたと言われています。
1750年(寛延3年)の第1期工事の完成後には、通行人から人4文、牛馬8文の通行料を徴収したという話が伝わっており、この洞門は日本最古の有料道路ともいわれています。最終的に開通したのは宝暦13年(1763年)だそうです。
ノミと槌だけで掘られた青の洞門が完成してから約250年後の現在、日本のトンネル掘削技術は世界有数のものとなりました。昭和63年(1988年)には人が往来するトンネルとして世界最長の青函トンネル(全長53.85km)を完成させています。
世界に目を向けてみましょう。
トルコ最大の都市イスタンブールの街を2分するボスポラス海峡はヨーロッパとアジアを隔てる海峡です。これらをつなぐ海底トンネルが日本の支援のもと今年(2013年)10月に完成しています。
下記の写真はボスポラス海峡の写真です(左岸がヨーロッパ、右岸がアジア)。この下に日本の建築技術で掘られた海底トンネルが通っています!
さて、トンネルと来たら橋でしょうか。
青の洞門から山国川を上流に徒歩10分程度のところに耶馬渓橋(やばけいばし)、通称オランダ橋と呼ばれる石造りのアーチ橋が架かっています。日本で唯一の8連石造アーチ橋で、日本最長の石造アーチ橋です。青の洞門をくぐった後はこの橋にも寄ってみて下さい。
ところで、競秀峰ですが、その一帯が売り出され、荒廃の危機に晒された事があります。この危機を救ったのは、現在の日本人が一番よく目にする人の一人です。誰だと思いますか?
答えは一万円札でおなじみの福沢諭吉です。
明治27年(1894年)、福沢諭吉(59歳)がここの景観を守るため、競秀峰一帯を買収しました。
ナショナル・トラスト (National Trust)と言う言葉をご存じでしょうか?
ナショナル・トラストとは、歴史的建築物や自然的景勝地の保護を目的として英国において設立されたボランティア団体の事を指します。そしてナショナルトラスト運動(ナショナルトラストうんどう)は自然環境等を経済的な理由での無理な開発による環境破壊から守るため、市民活動等によって買い上げる・自治体に買い取りと保全を求める活動です。
福沢諭吉の取った行動は正にナショナルトラスト運動の先駆けではないでしょうか。福沢諭吉と言えば「学問のすゝめ」が有名ですが、自然環境保護にも目を向けていたんですね。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」は自然の前では人の上下は関係ないと言う事が分かっていたからこその言葉なのかも知れませんね。
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