空の青と共鳴し、吸い込まれそうなほど魅惑的な湖の青。
この青は水深423.4mの日本一深い湖だからこそ創り出せる青と言えるかも知れません。
神秘的な雰囲気を醸し出す田沢湖(秋田県)です。
その昔、美しい女性辰子(たつこ)はその美貌を保ちたいと近くの大蔵観音に百日詣りをしました。その結果、山奥にある泉の水を飲めば願いが叶うとのお告げを受けます。
そのお告げの通り泉の水を飲んだ辰子は急に激しい喉の渇きを覚えます。その喉の渇きを抑えるために水を飲み続けますが渇きは癒えません。
水を飲み続ける辰子の姿はやがて龍の姿へと変化しました。それと同時に天候は荒れ始め豪雨となり、山は崩れ、谷は埋もれやがてそこに満々と水を湛えた湖が現れます。
龍となった辰子はこの湖の底に身を沈め、姿を消しました。
現在、田沢湖の湖畔に立つ辰子姫の像は永遠の美貌を得た姿と言えるかも知れません。青を背景に美しい美貌をと煌きを解き放っています。
田沢湖の湖底には辰子堆と呼ばれる直径1km、比高(高低差)100m〜300mの溶岩ドームが存在するそうです。
龍になった辰子姫と言うことでしょうか。
辰子姫の伝説が残る田沢湖にはかつてここにしかいない固有種のクニマス(国鱒)が生息していました。しかし、1940年(昭和15年)食糧増産と発電事業のために上流に玉川温泉があることで強酸性の水が流れる玉川から田沢湖へ水を引き入れたことにより絶滅してしまいました。
伝説の魚となってしまったのでしょうか?
クニマスが初めて文献に登場(1715年)するのは田沢湖から約20km離れた場所にある角館(かくのだて)を領した角館佐竹家(佐竹北家)の歴代の記録である『佐竹北家日記』(秋田県公文書館所蔵)だそうです。
クニマスは角館佐竹家から秋田藩主佐竹本家へ、あるいは佐竹本家から他藩諸家への献上品・贈答品として利用されていました。
クニマスは別名キノシリマスと言います。この呼び名は一説によると辰子の伝説に由来しているそうです。
突然姿を消してしまった辰子姫の母親は湖の畔で娘との対面を果たします。辰子姫は以前と変わらぬ姿で母を迎えましたがその実体は既に人ではありませんでした。
事実を知った母親は悲しさと悔しさのあまり持っていた薪の木の尻(松明(たいまつ))を湖に投げ込みました。すると一匹の魚へと姿を変え泳ぎ去ったと言うことです。
これがキノシリマス(木の尻鱒)と呼ばれる由縁です。
クニマスには更にウキキノウオ(槎魚)と言う別の呼び名があります。
辰子姫の像のそばに湖に突き出た漢槎宮(かんさぐう、別名=浮木神社(うきぎじんじゃ))と呼ばれる神社があります。このことから田沢湖の別名を漢槎湖(かんさこ)あるいは槎湖(うききのみずうみ、さこ)と言うそうです。
ここからウキキノウオ(槎魚)の名前が付きました。
↑漢槎宮
ちなみに田沢湖に生息するすべての魚についてウキキノウオと呼ぶこともあるようです。
余談ですが漢槎宮の名付けの親は俳人で漢学者でもある秋田藩士の益戸滄洲(ますどそしゅう)です。この人の名前にも字は異なりますが「マス」が入っていますね(^^)
さて、辰子姫の像から見て湖を挟んだ反対側、田沢湖の北岸に御座石神社(ござのいしじんじゃ)があります。
↑御座石神社
御座石神社は龍に姿を変えた辰子を神とする龍湖姫神(たつこひめのかみ)を主祭神として祀っている神社です。
↑御座石神社にある辰子姫の像
神社の名前は時の秋田藩主・佐竹義隆(さたけよしたか)が田沢湖を訪れた際に湖畔にあった石に腰かけて休んだことに由来します。
佐竹氏は先ほど述べましたがクニマスを献上品・贈答品として利用していたので御座石神社もクニマスが関わっていると言えないこともないですね。
以上のように現在は田沢湖に生息しないにも関わらずクニマスが辰子像を始め田沢湖の観光スポットをつなげている感じがしませんか?
さて、田沢湖で絶滅してしまったクニマスですが2010年山梨県の西湖(さいこ)にて生存個体が発見されています!
1935年に田沢湖から西湖に送られたクニマスの受精卵10万個を孵化後放流したものが繁殖を繰り返して現在に至ったと考えられているそうです。
現在、田沢湖のある仙北市(せんぼくし)などは田沢湖で野生クニマスの復活を目指しているようですが2017年時点においても強酸性の水が流入して湖水がまだ酸性であるためクニマスの生息は難しい状態にあるそうです。
田沢湖でのクニマス復活は道半ばですがクニマスそのものは2013年2月1日に環境省が発表したレッドリストにおいて「野生絶滅」の判定基準が変更されたことに伴い「絶滅」から「野生絶滅」に変更されたそうです。絶滅種とされた魚類の指定見直しはこれが初めてだそうです。
完全な絶滅ではなくなったわけです。まさに奇跡の復活と言えますね!
クニマスは奇跡的に絶滅の危機を間逃れそうですが一度絶滅してしまった固有種は二度と復活することはありません。
自然を守ることが私たち人類という種を守ることにつながります。田沢湖のクニマスを通してその重要性を学びましょう。
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