伝統と言うものはあらゆる条件が満たされた時に進化を遂げながら伝承されて行くものかもしれません。
そう思わせてくれるのは秋田の夏の風物詩「竿燈(かんとう)まつり」です。
なぜそう思ったのか?
それは竿燈に関わる要素を分解して一つずつその特徴を知る事でおわかり頂けると思います。
デザインは様々な分野においてその価値を高めるに当たり重要な要素の一つとなり得るでしょう。
竿頭には46個の提灯が吊るされ最上段の2個には「七夕」の文字が、残りの44個には参加する町内の町紋が印されています。これは江戸時代に9代目秋田藩主・佐竹義和(さたけよしまさ)が当時の町内毎に与えたデザインと言う事です。
祭りの際にまとう半纏(はんてん)の背にも同じ町紋を見る事が出来ます。そして半纏の柄も町内毎に異なります。
また、町内竿燈とは別に企業や学校から出される竿燈があります。そこにはそれぞれの企業や学校のロゴが印されています。かつては宣伝や社名が好き勝手に入れられていたようですが長い時間をかけてルールを統一し現在に至っているそうです。
ここに古い伝統と現代の企業との調和性が見られますね。
洗練されたデザインは提灯の明かりによって夜の街に浮き上がる事になるわけですがその明かりを作り出すのに電球は一切使用されず全てロウソクの火が使用されているとの事です。
伝統に対するこだわりという火が灯り続けていると言えるでしょう。
さてロウソクの火に灯された46個もの提灯が吊るされる竿燈は重さ約50kg、長さ12mに及ぶそうです。差し手はこれを手、額、肩、腰に乗せながら街をねり歩くわけですから相当な力と技が必要と言う事は想像に難くありません。
祭りを終えた後に手のひらや額などに残る技の跡は、なんと3ヶ月間程消えないそうです。
観客はこのダイナミックな力と技に魅了されるのでしょう。
現在では「力四分、技六分」と評されているそうですから技の重要性が分かりますね。
竿燈は大人用の「大若」、中高生用の「中若」、小学四年生以上の「小若」、そして5歳から小学三年生までの「幼若」の5つの大きさに分けられます。
子供達は「いつかは大若を!」という憧れを持っているのではないでしょうか。そしてこの憧れが伝統の継承に欠かせないものとなっているようです。
と言うのも竿燈の参加人数は増える傾向にあるからです。
実際に2011年から7年連続で過去最多の出竿本数を記録し、今年(2017年)の竿燈まつりでは昨年から2本増えて282本だったそうです。
さて、子供から大人まで参加する事の出来る竿燈ではありますが残念ながら女性は参加する事ができません。竿燈は女人禁制だからです。
しかし、1980年から囃子手として女性も祭りへの参加が認められています。
時代の流れに柔軟に対応する事も伝統を継承して行く上での重要なファクターの一つでしょう。
ところで華々しい表舞台を飾るには裏方の力が必要です。
竿燈にはしなやかさとある程度の強度が求められます。その為には竹職人の技が必要です。
あるいは提灯や太鼓にも職人の技が充分に織り込まれている事でしょう。
デザインの確立。技の継承。時代の流れに対する順応性。黒子役に徹する人達と品質維持の為の努力。
竿燈はこれらが一体となりブランドを確立する事で進化しながら伝統を守り抜いているのです。
現在では重要無形民俗文化財に指定されており、青森のねぶた祭り、仙台の七夕まつりと並んで東北三大祭りの一つとされています。 また、二本松提灯祭り(福島県)、尾張津島天王祭(愛知県)と並び、日本三大提灯祭りの一つにもなっています。
確固たる地位を築き上げた結果と言えますね。
さて、ここまで竿燈を語っておきながら暴露します!
実は実際の竿燈を見たわけではありません(^^;
ではなぜここまで竿燈を語る事が出来るのか?と言いますと「秋田市民族芸能伝承館」で竿燈の一部を垣間見て来たからです。
↑秋田市民族芸能伝承館
上記に添付した写真は全て秋田市民族芸能伝承館で撮影したものです。
更にここでは竿燈の実体験も出来るので訪れた際は是非トライして下さい!
また、併せて隣接する江戸時代後期の伝統的形式を継承した建物「旧金子家住宅」も見学する事が出来ます。
↑旧金子家住宅
ところで秋田市民族芸能伝承館には「ねぶり流し館」と言う別名があります。
「ねぶり流し」とは何でしょうか?
竿燈の起源は江戸時代の宝暦年間(1751年〜1763年)にまで遡ります。
笹竹などに願い事を書いた短冊を手に町を練り歩いた後、川へ流して真夏の邪気や睡魔を払い去り祖霊祭祀、無病息災、家内安全を祈る七夕行事の一つである「眠り流し」が竿燈の原型とされています。秋田市では「眠り流し」という言葉が訛り、「ねぶり流し」と呼んでいるそうです。
この「ねぶり流し」に豊作祈願が結びつき現在につながる竿燈の形態が生まれたと言う事です。
故に竿燈は、全体を「稲穂」、連なる提灯を「米俵」に見立てているのだとか。
如何でしょうか?
以上、私の拙いねぶり流し会館と竿燈の説明でしたが竿燈まつりの一部に触れたような気分になりましたでしょうか?
因みにねぶり流し館以外にも秋田の街中で竿燈の片鱗に触れる事ができます。
↑竿燈まつりが行われる竿燈大通り
↑竿燈まつりのモニュメント
↑歩道に埋め込まれた提灯のデザイン
秋田に訪問する事は出来ても竿燈祭り開催期間に訪れる事が出来ない人は大勢いると思います。その場合は以上のように工夫しながら別の角度で竿燈を楽しむ事は可能です。
竿燈まつりに秋田に訪問出来ない方もいつかは本物の竿燈まつりを見学する為の予行演習と思ってねぶり流し会館と秋田市内を観光しましょう!
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