高い技術と品質を備えた越前和紙は豊かな自然に囲まれた福井県越前市今立地区(いまだてちく)で長い歴史を紡いで来ました。
越前和紙はおよそ1500年前には既に存在していたと推測されています。
そして今も全国一位の和紙の産地として生産が続けられています。
今立地区には職人技の見学、紙漉きの体験などが出来る施設が集中する「越前和紙の里」と呼ばれるエリアがあります。
↑越前和紙の里
この越前和紙の里を散策しながら、なぜこの地が和紙の産地となったのか、その理由を探ってみましょう。
越前和紙の里から1kmほど離れた場所に日本で唯一、和紙の神様・紙祖神(しそじん)が祀られる神社・岡太神社(おかもとじんじゃ)があります。
ここに伝説が残されています。
『ある日、美しい女性が現れて「この地は田畑が少ないから生活に困っているであろう。しかし、この村には清らかな水が流れ、豊かな緑の木々恵まれているから、これからは紙を漉いて生活をたてるがよい」と告げ、自ら紙の漉き方を村人に教えました。後に村人はこの女性を川上御前(かわかみごぜん)と呼ぶようになり紙祖神として岡太神社に祀りました。』
火のないところに煙は立たない。
この伝説にも何らかの根拠があるはずです。
以下、推測になりますが紐解いて行きましょう。
紙の産地になる為に必要な条件は「良質な水」「豊富な原材料」「製法の知識」の三つの条件が揃う事です。
↑越前和紙の里_紙の文化博物館(越前和紙の歴史に関する資料、古紙、道具などが展示されている)
第26代天皇・継体天皇(けいたいてんのう:在位期間=507年〜531年)は近江国高嶋郡(現滋賀県高島辺り)で生まれ、幼少期に父を亡くし母の実家がある越前国(現福井県北部辺り)に移り住み天皇に即位する前は越前地方を統治していたとされています。
統治時代には鉄の生産地を開拓し農業に必要な工具の開発を進めると共に治水事業などを行う事で稲作の発展に寄与したようです。
継体天皇の治水事業により良質な水が継続的に得られるようになったわけです。
次に豊富な原材料です。
古代の福井ではコウゾ、ガンピ、ミツマタなどの紙を作るのに必要な原材料が豊富にあったと言う事です。↑コウゾ(越前和紙の里_紙の文化博物館)↑ガンビ(越前和紙の里_紙の文化博物館)
最後に製法の知識です。
川上御前は渡来人だったと言う説があります。
古代日本の各種技術のほとんどは中国あるいは朝鮮からの渡来人によって伝えられました。
日本海に面する越前国は大陸や朝鮮半島との交流の玄関口であり多くの渡来人がこの地に住んでいたと推測されています。
この事から「紙の製法」もまた渡来人によって伝えられた可能性が高いと言う事です。
更に継体天皇は川上御前と関わりの深い人物とされている事から、継体天皇から川上御前に対し何らかの指示があったかもしれません。
これで紙の生産地となる三つの条件が揃った事になります。
以上の事から岡太神社に残る伝説には信憑性があると言えそうですね。
↑越前和紙の里_卯立の工芸館(紙漉き家屋を移築復元した建物。伝統工芸士が昔ながらの道具を使って和紙を漉く様子を見学出来る)
和紙の定義を表現するのは難しいのですが簡単にまとめると「コウゾ、ガンピ、ミツマタなどの表皮の内側の靭皮繊維(じんびせんい)と呼ばれる繊維を使用し、紙を漉く時に、揺すりながら紙の層を形成する流し漉きと呼ばれる日本独自の製法で作られたもの」となります。
↑越前和紙の里_パピルス館(越前和紙の紙漉き体験が出来る)
渡来人から教わった製法はやがて日本独自の製法が加わり現代の越前和紙となりました。
越前和紙はその優れた品質故に歴史上の重大な役割を常に果たしています。
1661年に福井藩が発行した「福井藩札」に越前和紙が採用されています。これは現存する藩札としては最古のものです。↑福井藩札の複製(越前和紙の里_紙の文化博物館)
藩札は地域限定のお札ですが1868年には日本最初の全国紙幣である「太政官札」が越前和紙を使い発行されています。
お札関連でもう一つ。
お札に必ず入っている「すかし」。日本のすかし技術とその表現力は、世界からも高い評価を得ていますが越前和紙に伝わる「白黒すかし」という技法がその始まりとなっています。
お札という品質が重要視される紙に越前和紙が常に採用されている事は越前和紙の品質の高さを証明していると言えるでしょう。
そしてそれは現在進行形です。
音響メーカーのスピーカー部品。あるいは越前和紙を生かした和紙繊維に抗菌消臭の効果が認められてその繊維が宇宙滞在用被服に採用されたりしていると言う事です。
如何でしょうか?
高い品質を維持する事は次のステップへ登る重要な条件の一つと言う事を越前和紙は証明していると言えます。↑越前和紙(越前和紙の里_卯立の工芸館)
越前和紙は日本を代表する和紙の一つと断言出来ますね。
越前和紙の里に足を運ぶ機会があれば是非、伝統を守りながら進化を続ける越前和紙に触れて下さい!
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