ディープラーングによってAI(人工知能)の能力は飛躍的に向上しました。
例えば人間は猫を猫と簡単に判別する事ができます。
目、口、鼻、耳、ひげ、尻尾。
これらは猫にも虎にも、あるいは犬やネズミにも有ります。
しかし、私達は猫を猫と判断し、虎を虎と判断出来ますね。
これまでのコンピューターにはこれが出来ませんでした。
しかしグーグルは1,000万枚の猫の画像をAIに見せることによりコンピューターが独自に猫を猫と判断させる事に成功しました。
これがディープラーニング(深層学習)です。
コンピューターはどこまで進化するのでしょうか?
話は変わりますが私達がお寺で見る仏像には一定の形式があります。
しかし江戸時代初期に活躍した廻国僧である円空(えんくう)の彫った仏像はこの形式を無視した一種独特な魅力を持ち合わせています。
AIは円空の仏像を仏像と判断できるのだろうか?
そんな事を考えさせてしまうくらいに円空の彫った仏像は他とは異なる仏像だと個人的には思っています。
円空の彫った仏像の写真を見て下さい。
↑岐阜県観光企画課発行「円空仏ガイドブック」掲載の写真を撮影
どうですか?
荒い彫りにも関わらず素朴さと優しさのこもった柔らかい表情をしていますよね。
これらは円空仏と呼ばれ現在のところ東日本各地で5,000体近く発見されています。
円空は1632年に美濃国(現在の岐阜県南部)で生まれたとされています。
32歳(1664年)から仏像を彫り始め日本各地を行脚しながら生涯仏像を掘り続けました。
晩年の61歳(1692年)からは関市洞戸地区にある高賀神社(こうかじんじゃ)を作製地とし、ここで最後の作とされる歓喜天僧を作像しています。この像は現在高賀神社に隣接する円空記念館に展示されています。
↑高賀神社
↑円空記念館
さて、場所を変えて関市池尻地区に目を向けてみましょう。
ここには飛鳥時代に長良川中流域を勢力基盤としていたムゲツ氏の本拠地だったとされる弥勒寺官衙遺跡(みろくじかんがいいせき)が存在します。
↑弥勒寺官衙遺跡
円空は廃寺となっていた弥勒寺を再興した後、64歳(1695年)の時にこの地で自ら入定(にゅうじょう:高僧が死ぬ事。入滅)したと言われています。
現在の弥勒寺は1920年の焼失後に再建されたものです。池尻地区にはこの他に円空仏が展示される円空館があり円空ゆかりのエリアとなっています。
↑弥勒寺
↑弥勒寺境内にある円空仏のレプリカ
↑円空入定塚
↑円空館
さて数多くの仏像を残した円空ですが、その仏像は刃物を使用して彫られたはずです。
そして円空ゆかりの地である関市は刃物の一大産地です。
円空は関で作られた刃物を使って円空仏を彫ったのかもしれませんね。
関でいつ頃から刃物造りが始まったのかはっきりした事は分からないようですが今から700年程前の鎌倉時代に刀祖の元重(もとしげ)と言う人物が関の地に訪れ刀鍛冶を始めたのがきっかけだったようです。
戦国時代には300人近い刀工がいたとされ、特に「関の孫六」で有名な2代目・孫六兼元(まごろくかねもと)の刀は武田信玄、豊臣秀吉、黒田長政など多くの武将が佩刀(はいとう)したとされています。
ところが明治時代に入ると「廃刀令」が発布され刀剣産業は衰退の一途を辿る事に。
その後2度の世界大戦で軍需産業の一つとして再び刀剣産業が活況を呈したものの終戦後に刀剣の生産は禁止されてしまいます。
この苦境を乗り越える為に関の刀剣産業は家庭用刃物の生産へと方向転換しました。
刃物製品で有名な貝印(株)さんやフェザー安全剃刀(株)さんなども関で創業しています。
↑フェザーミュージアム
更に関の刀について詳しく知りたい方は鍛治の技術や歴史を映像・資料・展示などで紹介する関鍛治伝承館へ足を運んでみてはいかがでしょうか。芸術の域に達した刀の素晴らしさを知る事ができるでしょう。
↑関鍛治伝承館
余談ですが関東と関西の境界線はどこか知っていますか?
歴史的には越前の愛発関(あらちのせき)、美濃の不破関(ふわのせき)、伊勢の鈴鹿関(すずかのせき)の三つの関所(古代の日本で特に重要視されたこれら三つの関を総称して三関と呼ぶ)を結んだ線より東を関東、西を関西と呼んでいたそうです。
ところが関鍛治伝承館の入口付近に関市が関東と関西の境界は関だと宣言したプレートとモニュメントが掲げられています。
切れ味の良い関の刀と洒落で東西を分けたと言う事ですかね(^^)
伝統ある刀剣生産の技術により高品質な刃物を生産する関(Seki)はイギリスのシェフィールド(Sheffield)、ドイズのゾーリンゲン(Solingen)と並び世界3大刃物工業都市(3S)の一つに数えられるほどに発展しました。
AIの進歩により今まで人間のこなして来た仕事は今後益々コンピューターに取って代わられる事でしょう。
しかし彫刻や刀のような工芸品は微妙な曲線や不均一なデザインにより魅力を生み出します。これらは人間の感性しか創り出す事の出来ないものでしょう。
そのような視点で見ると関の町は刀剣鍛治が始まった頃も円空が仏像造りを始めた頃も常に最先端を走って来たのかもしれませんね(^^)
日本の真ん中、関に訪問して日本の未来へのヒントを見つけましょう!