「美」に対し人があまり目を向けない領域にまで気を使った時、直感的に芸術性の高さを感じるのかもしれません。
通常、寺院の伽藍において梵鐘(ぼんしょう)は脇役と行ってもよいのですが平等院(宇治市)においてはその脇役にさえも配慮されていると言えます。
平等院の梵鐘は「音の三井寺」、「銘の神護寺」と並び「姿、形の平等院」と謳われ「天下の三名鐘」に数えられています。
↑梵鐘
故に鳳凰堂の姿、形は微に入り細に入り美に対する配慮がなされています。だからこそ均整のとれた美しさは芸術性が高く見る人の心を奪って行くのかもしれません。
↑鳳凰堂
桓武(かんむ)天皇の命により造られた都は平らかに安らかにという願いを込めて平安京と名付けられました。
鎌倉幕府が成立するまでの約400年間、平安京が政治の中心地であった為この時代を日本史において平安時代と呼びます。
しかし、その名前とは裏腹に富士山の噴火や大地震が頻発し、干ばつによる飢饉や天然痘など疫病の流行、更には戦乱による都の荒廃などの人災も加わり不安定な時代でした。
今のように科学が発達していなこの時代の人々にとっては尚更心理的に厳しい時代だったことでしょう。
釈迦の入滅から1,500年目(または2,000年目)以降は仏法が廃れると言う思想を末法思想と言います。
天災人災が続いた平安時代。末法思想が終末論的な思想と重なり民衆の不安が一層深まる中、1052年は末法元年とされ人々を恐れの中へと追い込んでいました。
その同じ年に誕生したのが平等院です!
終末論的な思想を払拭すると共に極楽往生(極楽に生まれ変わること)の願いが込められて創建された事は間違い無いでしょう。
翌年の1053年に御本尊である阿弥陀如来を安置する為の阿弥陀堂が建立されました。それが現在の鳳凰堂です。
↑鳳凰堂
ちなみに阿弥陀如来坐像は寄木造技法の完成者とされ平安時代を代表する仏師・定朝(じょうちょう)の作である事が確証されている唯一の遺作です。
↑阿弥陀如来坐像
鳳凰とは天下太平の象徴で、鳳凰が現れると世界は平和になると信じられた伝説の鳥です。
↑鳳凰
説明せずとも殆どの方がご存知だと思いますが鳳凰堂はその名の通り中堂、左右の翼廊、背後の尾翼が鳳凰を表現した芸術性の高い美しい建築物です。
↑鳳凰堂_翼廊(左)
↑鳳凰堂_翼廊(右)
↑鳳凰堂_尾翼
↑鳳凰堂
中堂の屋根の両端に一羽ずつ鳳凰が設置されています。
ところで鳳凰って「鳳」が雄で、「凰」が雌って知っていましたか?
もし屋根に一羽しか飾られていなかったら鳳凰堂とは言わず、鳳堂か凰堂になっていたって事ですかね?(^^;
陰陽滅滅の雰囲気が漂う平安時代に舞い降りた鳳凰堂は源平合戦、南北朝の争乱、太平洋戦争など多くの争いを潜り抜け当時のままの姿を今に伝えています。
特に南北朝時代の争乱においては楠木正成と足利氏の戦いで宇治の地が戦場となり楠木正成が平等院に火を放ち多くの建物が焼失した中、鳳凰堂だけがその災難をまぬがれています。
そして最近では1994年に世界遺産に登録されました。
鳳凰堂はその名にふさわしく世界の平和の象徴として現在までその使命を全うし続けていると言う事ですね。
↑鳳凰堂
ところで、これまで説明して来た登場物の中の梵鐘と屋根の鳳凰はレプリカであり、本物は境内に併設されている鳳翔館に展示されています。ここは防災設備も整っているでしょうからこれからも未来へ向けて当時の姿のまま残り続ける事でしょう。
↑鳳翔館
最後に平等院の宗派について触れてみたいと思います。但し、仏教について詳しくないので細かいところは間違っているかもしれませんがそこは大目に見て頂下さい(^^;
仏教用語で仏寺創建の際、財政的支持を行う世俗の人の事を開基と呼び、寺院を創始する事を開山と言います。
平等院の開基は時の関白・藤原頼通(ふじわらのよりみち)であり、開山は天台宗の僧・明尊(みょうそん)です。
寺社などの新築、修理の完成に対する祝賀式の事を落慶法要(らっけいほうよう)と言います。
1052年の落慶法要には主尊を真言宗の本尊でもある大日如来で行ったとの記録があるそうです。
そして鳳凰堂に安置されているのは浄土宗の阿弥陀如来ですね。
これらが何を意味するのか?
もうお気づきですね。
平等院には色々な宗派が混在しているのです!
このような経緯も手伝っての事と思いますが平等院の境内には天台宗の塔頭「最勝院」と浄土宗係の塔頭である浄土院が併設されています。
※塔頭(たっちゅう)=本寺の境内(けいだい)にある小寺
↑最勝院
↑浄土院
では平等院そのものは?と言いますと第二次世界大戦後、特定の宗派に属さない単立の仏教寺院となっているそうです。
↑鳳凰堂
平等院は名前の通り色々な宗派を平等に扱っていると言えますね(^^)
建物そのものが平和の象徴である鳳凰の形をした鳳凰堂を持ち平和にとって最も必要な要素の一つ共存共栄を実践している平等院へ足を運び世界が平和になるように祈りましょう!