物ごとの由来や言葉の語源を知るとそこに関わる歴史に触れる事が出来ます。更にその語源から様々な事を連想していけば視野が広がって行くことになるでしょう。
島根県の安来市(やすぎし)はかつて強大な勢力によって治められていた形跡が残っています。
例えば、日本最大級の方墳である造山古墳群(つくりやまこふんぐん)や同じく日本最大級の出雲地方に見られる特有の形をした四隅突出型墳丘墓(よすみとっしゅつがたふんきゅうぼ)の集中地帯を含む数多くの古墳群が存在しています。
島根県では良質な砂鉄が古くから産出されており、それを活かした踏鞴製鉄(たたらせいてつ)が盛んでした。安来においても弥生時代の製鉄遺構が残されています。神在月には出雲を目指す神様が安来に集結し鉄の買い付けを行ったというような伝説も残っているそうです。
武器の生産が盛んであったならばこの地域に強大な勢力があったとしても不思議ではないですよね。
「古事記」「日本書紀」にも登場し、スサノオノミコトが統治していた地域に該当するのではないかとも言われています。更には「出雲国風土記」ではスサノオノミコトが安来と命名したと伝えているそうです。
そして、時代が進み江戸時代になると日本国内の実に8割~9割の鉄生産量を占めるまで発展し、北前船の寄る中海(なかうみ)に面した安来港は鉄製品の積出港として大いに栄えたと言うことです。
↑日本で5番目に大きい湖・中海
安来は日本の製造業の中心地だったんですね!
ところで現在はどうなのでしょうか?
この地方で生産される鋼は安来鋼(やすきはがね)と呼ばれ、その伝統を引き継いだ日立金属の安来工場が最先端技術で製造する工具鋼、耐熱鋼、ステンレス鋼等は「YSSヤスキハガネ」と称され今も尚活躍しています!
話は変わりますが安来と言えば「どじょうすくい」で有名な安来節(やすぎぶし)がありますよね。
手ぬぐいを頭に被り一文銭(現代では一文銭の代わりに五円玉)を鼻に当てて踊る格好は見る人を楽しませてくれます。どじょうすくい饅頭としてお土産にもなっているのでこちらの方面に出かけた際は話のネタに買ってみては如何でしょうか。
安来節は安来鋼を作るたたら吹き製法の際に原料として使われる砂鉄採取の動作を踊りに取り入れたものとされているそうです。
この地方の伝統産業に由来しているんですね。
更に言えば安来節の主人公であるどじょうも砂鉄とまんざら関係が無いわけではありません。
どじょうはコイ目ドジョウ科に分類される淡水魚の一種で水田や沼などの湿地に生息しています。漢字で書くと「泥鰌」となり、名前の由来は明確にはなっていないようですが泥の中に住むことに関係していると言う説が存在しています。
泥は土から出来ています。土の中には砂鉄が混ざっていることもあるでしょう。
そしてどじょうの同音異義語に「土壌」があります。土壌とは地表の岩石がくずれ、分解変化したもの。要するに土です。
つまり、安来節の踊りはどじょう(土壌)の一部である砂鉄を採取する際の動作がどじょう(土壌)の一部でもある泥に名前の由来の一説を持つどじょう(泥鰌)を主人公にしたどじょう(泥鰌)すくいに似ている事から生まれたと言うことになります。
なんだかこんがらがってしまいますが要するに「どじょう(土壌)(泥鰌)」つながりです(^^)
この地方で安来節が生まれたのは偶然ではないのかも知れませんね。
ところで良質の土壌であれば植物の成長も高まります。そして植物は庭造りに欠かすことのできないアイテムの一つです。
安来には庭造り日本一の場所があります。
足立美術館です!
足立美術館は米国の日本庭園専門雑誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』が行っている日本庭園ランキングで2003年の第一回から2014年まで12年連続で庭園日本一に選出されています(2015年10月現在)。
そのスケールと美しさには圧倒されるばかりです。でありながら心が癒されます。日本人の繊細な気配りが隅々まで行き渡る日本庭園は日本の誇りの一つですよね。
足立美術館には日本庭園の他、130点に及ぶ横山大観の作品を始め近代日本画家の作品が訪れる人の目を楽しませてくれます。
さて、どじょう(土壌)(泥鰌)つながりでご紹介した足立美術館ですが、その横には安来節が観賞出来る安来節演芸館が隣接しています。
どじょう料理や特産品を販売するお店も併設されていますので足立美術館に訪問した際は寄ってみては如何でしょうか。
安来節の由来から安来鋼の歴史に触れ、視野を拡げて日本庭園の素晴らしさをお伝えさせて頂きました。