露草色の空を背景に白壁の映える秀麗なその姿は訪れた人を必ず魅了するでしょう。
「国宝五城」「三名城」「三大平山城」「三大連立式平山城」「現存12天守」など日本の城に関する数々の称号においてその一つに数えられている姫路城は日本の城郭建築における最高峰に位置していると言えます。
姫路城は南北朝時代の1346年、赤松貞範(あかまつさだのり)が姫山に城を築いたのが最初とされています。
以降、一時期を除いて赤松氏とその一族によって長く保たれますが戦国時代の混乱期に城代を務めていた黒田官兵衛(くろだかんべえ)が1580年、豊臣秀吉の毛利攻撃の際に秀吉に献上します。
その翌年に初めて三層の本格的な天守が築造されました。これが現在の姫路城へ続く礎となります。
↑豊臣秀吉の築城の際に築かれたとされる上山里下段石垣
1600年、関ヶ原の戦いで豊臣氏に勝利した徳川家康は豊臣恩顧の大名が多い西日本に対する備えとして家康の娘婿にあたる池田輝政(いけだてるまさ)を姫路城へ入城させました。
輝政は1601年から城の大改造を開始。9年後、現在私たちが目にする美しい姫路城が完成します。
この美しい城が当時のままの姿で生き長らえてくれた事は感謝以外の何者でもありませんよね。
姫路城は戦火の脅威を逃れて現代に至っていると言う事実があります。
どんな脅威だったのでしょうか?
幕末期、新政府軍に囲まれた姫路城は総攻撃の危機に晒されましたが兵庫の豪商・北風正造(きたかぜしょうぞう)が仲介に入り15万両に及ぶ私財を新政府軍に献上する事でこの危機は回避されました。
更に、第二次世界大戦中の姫路空襲(1945年)で城下が焦土と化す中、姫路城は被災から免れています。
↑姫路城と現在の姫路城下
ここで特筆すべき事は姫路城にも焼夷弾が着弾しているのですが不発、あるいは直ぐに消化された事により奇跡的に焼失を回避していると言う事です。
これらの事から姫路城は不戦の城と呼ばれています。
戦国時代の旧式の兵器に備えて造られた姫路城が近代兵器の焼夷弾の攻撃にも耐えてしまったと言うのはそこに目に見えない何らかの力が働いたのかもしれません。
お城にとって火は大敵です。姫路城はその対策として城全体を耐火性のある白漆喰で覆われています。
しかし、これは目に見える部分であり、物理的な部分ですよね。
それでは目に見えない何らかの力とはどのような力だったのでしょうか?
そのキーワードは「水」です。
それでは不思議な水の力を探って見ましょう!
水の力①
姫路城には多くの門が備えられていますがその中でも天守へ向かう「にの門」は最後の砦と言ってもよく、門柱、冠木、大戸からくぐり戸まで鉄板で覆うという最高レベルの防御力を備えています。
そのような「にの門」の軒瓦に刻まれているのが三巴紋(みつどもえもん)です。この紋は水を表す紋であり、火除けの意味が込められているようです。
↑にの門(左手前の軒瓦には三巴紋がみられます)
水の力②
「門」についてもう一つ。
姫路城の天守台を守る役割をしている門があります。その門に付けられた名前が「水の門」です。「水の門」は一から六まであり、それらをくぐりぬけると天守の入口に到達します。
ちなみに「水の門」が連続する曲輪(くるわ)は、水曲輪と呼ばれています。
水の文字がついた門が6門もあるわけですね。
↑水の二門
水の力③
姫路城天守の最上階には刑部大神(おさかべたいしん)を祀る刑部神社が鎮座しています。
姫路城は刑部大神を祀る神社があった(豊臣秀吉は築城にあたり刑部大神の社を町外れに移した)姫山に築城されました。
池田輝政は姫路城の大改修直後に病死しているのですがこれを刑部大神の祟りとし城内に刑部神社を建立したと言う事です。
↑刑部神社
刑部大神の正体は定かではないようですが長壁姫(おさかべひめ)と呼ばれる女性の妖怪と言う説があります。
長壁姫の伝承として以下のものがあります。
1749年、姫路藩より前橋藩へ転封となった松平朝矩(まつだいらとものり)は前橋城の守護神として姫路城から刑部神社を奉遷し、城内に建立しました。
その後、大水害で城が破壊された為、川越城への移転を決めます。
ある日、長壁姫が朝矩の夢枕に現れ、神社も川越へ移転するように願いました。しかし朝矩は、水害から城を守れなかったと長壁姫を詰問し、刑部神社をそのままに川越へ移ったと言う事です。
余談ですがゲゲゲの鬼太郎のアニメ第5作99話に長壁姫が登場し琵琶湖の水を丸ごと吸い上げ水の竜巻を作る場面があるそうです。
長壁姫は水を引寄せる妖怪(or 神様?)だったのかも知れませんね。
水の力④
妖怪の話が出たのでもう一つ。
怪談話で有名な皿屋敷の「お菊井戸」は姫路城にあります。井戸は水に関係していますね。
↑お菊井戸
水の力⑤
最後に姫路城の別名です。
ご存知の通り姫路城の別名は白鷺城(しらさぎじょう、はくろじょう)ですね。サギは、川や水田などを餌場とし、ペリカン目サギ科に属する水鳥の仲間です。
名前まで水に関係していますね〜
如何ですか?
姫路城は目に見えない水の結界が張り巡らされているのです!
そんなバカなと思うかも知れませんが最後に興味深い話を紹介させて頂きます。
それは姫路空襲による姫路城の被害についてです。
姫路空襲が決行された当日、姫路城の白壁は非常に目立つ事から黒く染めた網(擬装網)で城の主要な部分は覆い隠されていたそうです。
その理由から姫路城に焼夷弾が投下されたものの被害は少なかったと言う見方は出来ます。
しかし、姫路空襲で出撃したB-29爆撃機は約60機と言う事です。
B29の数と大きな的(まと)として狙い易い姫路城と言う二つの点からすると姫路城に着弾した数は圧倒的に少なかったのではないでしょうか?
↑広大な姫路城
当時、B29の機長だったアーサー・トームズさんは次のように証言しているそうです。
「レーダーには堀の水が映ったことから姫路城一帯を沼地だと思い、沼地を攻撃しても意味がないと判断したため爆撃しなかった」
↑内堀
また他の元米軍機長は「(姫路城攻撃を)回避せよという命令はなく、残ったのは全くの偶然」と証言しているそうです。
姫路城内に張り巡らされた科学では解明できない不思議な水の結界が焼夷弾と言う火の攻撃から姫路城を守ったのでしょう。
本当に必要なものは何らかの力が働いて守られると言う事ではないでしょうか?
姫路城を訪れ本物の美しさに触れましょう!
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